「寝不足でゲームが下手になる」は半分だけ本当だった
こんにちは、GAME STEP編集部です。
仕事終わりの寝不足のままランク戦に入ると、どうも当たらない。「寝てないから下手になっている」と感じたことのある方は多いと思います。
今回取り上げる2024年の研究は、その説明を珍しい方法で確かめました。eスポーツの選手の片方だけを実際に丸一日以上眠らせず、しっかり寝てきた相手と対戦させたのです。
結果は、半分は予想どおり、半分は意外なものでした。何が落ちて、何が落ちなかったのかを紹介します。
夜勤明けだったり、テスト前の徹夜だったり、つい朝まで配信を見てしまっただけだったり。
理由は何であれ、寝不足のままランク戦に入る夜があります。
そして負けが込むと、こう考えます。
「今日は寝てないから、反応が終わってる」。
直感的には、かなり正しく聞こえる説明です。
2024年、この説明を実験室に持ち込んだ研究チームがいます。
eスポーツの選手を集めて、片方だけを約29時間起こしたままにし、寝てきた相手と対戦させました。
結果を先に言うと、反応は確かに遅くなっていました。それでも、勝敗の悪化は確認されませんでした。
こんな夜に覚えはないでしょうか。
- 寝不足の日は、撃ち合いの初弾がワンテンポ遅れる気がする
- 「昨日あまり寝てないから」が、負けたときの言い訳として定着している
- 大事な大会やランク挑戦の前夜ほど、緊張して眠れない
- 睡眠を削ってでもプレイ時間を確保するのが習慣になっている
この研究では何を調べたのか
今回紹介するのは、アイルランドのリムリック大学のSmithies・Toth・Campbellの研究チームが2024年に発表し、睡眠研究の国際誌「Nature and Science of Sleep」に掲載された研究です。
連敗とティルトの研究を発表したのと同じ大学のeスポーツ研究グループで、著者のうち2名はその論文にも名を連ねています。
参加者は、車でサッカーをするゲーム「Rocket League」のプレイヤー40名。
平均19.9歳、プレイヤー全体の上位約20%に相当する腕前で、平均プレイ時間は約2,000時間です。
実験の組み立てはこうです。
40名を腕前の近い2人1組のペアにして、片方は6時間以上寝たうえで、もう片方は約29時間眠らないまま、同じ回線で直接対決させました。
- まず2人とも十分寝た状態で対戦し、基準の成績を測る(1対1を7試合。1組だけ6試合の回があった)
- 後日、片方だけが約29時間起き続けた状態で、同じ相手ともう一度対戦する
- あわせて、反応の速さを測るテスト、頭の切り替えを測るテスト、眠気の自己評価も行う
徹夜側の過ごし方も管理されています。激しい運動と、ゲームに近い操作の遊びは禁止。カフェイン入りの飲み物もなしで、監視のもと朝まで起き続けました。
今回は「実験」です。これまで紹介してきた2本の研究(一時点の相関調査)と違い、研究者が「寝る・寝ない」の条件を割り当てて比べているため、「徹夜が原因で何が変わったか」まで言える設計です。ただし調べたのはRocket Leagueなので、他のゲームに当てはまるかは別の問題として残ります。
研究で分かったこと
発見① 反応は遅れ、「注意の途切れ」は大きく増えた
光ったらボタンを押すだけの反応テスト(PVTと呼ばれます)で、徹夜側は反応が平均で約49ミリ秒遅くなりました(p < 0.001)。
「p」は、その差がたまたま出てしまう確率です。p < 0.001なら「まぐれでこの差が出る確率は0.1%未満」。一般的に5%(p < 0.05)を下回ると「偶然ではなく、意味のある差」と判断されます。
49ミリ秒は、0.049秒。
数字だけ見ると小さく感じますが、単純計算では、映像が1秒間に144回更新されるモニター(144Hz)で約7コマぶん、60Hzでも約3コマぶんの遅れになります。撃ち合いの初弾がコンマ数秒を争うゲームなら、無視できない量に見えます。
さらにはっきり出たのが「注意の途切れ」です。
反応に0.5秒以上かかってしまった回数(ラプスと呼ばれます)が、徹夜側では約4.9倍に増えました(p < 0.001)。
平均が少し遅れるだけではなく、「一瞬ぼんやりして、反応が飛ぶ」瞬間が跳ね上がっていたということです。
頭の切り替えを測る課題でも、単純な条件で約42ミリ秒の遅れが出ています(p = 0.029)。
本人たちの自己評価でも、眠気は強く、覚醒度とやる気は下がっていました。
徹夜した頭は、確かに遅くなっていた。反応は約49ミリ秒、注意が飛ぶ瞬間は約4.9倍。ここまでは「寝不足で下手になる」の直感どおりです。
発見② それでも、直接対決の勝敗に悪化は確認されなかった
ここからが、この研究のもう半分です。
徹夜側と通常睡眠側の対戦成績(得点差)を比べたところ、意味のある悪化は確認されませんでした(p = 0.498)。
反応も注意も確かに落ちているのに、試合の結果には表れない。
研究チーム自身も、この食い違いの説明を1つに絞っていません。論文で挙げられている候補はこうです。
- Rocket Leagueのような複雑で変化の激しい課題は、単調な作業と違って睡眠不足の影響が数字に表れにくいことが先行研究で知られている
- 「目の前に対戦相手がいる」競争的な状況が本気を引き出し、眠気を一時的に上書きした
- Rocket Leagueの試合は5〜10分と短く、集中が切れる前に終わる
- 反応の遅れは起きていても、勝敗を左右しない場面で起きていた
一晩の徹夜でも、直接対決の勝敗に悪化は確認されなかった。「徹夜しても大丈夫」ではなく、「慣れた操作と短い試合なら、一晩ぶんの遅れはまだ表に出ない」と編集部では読んでいます。
発見③ 変化が出たのは「空中にいる時間」だけだった
勝敗以外のプレイ内容も、5つの指標で探索的に調べられています。
- シュート数:有意な変化なし
- セーブ数:有意な変化なし
- ボールより自陣側にいる時間:有意な変化なし
- 相手への体当たり(デモ)の回数:有意な変化なし
- 空中にいる時間:わずかに減少(0.48ポイント減・p = 0.013)
Rocket Leagueの空中プレイは、操作が難しいぶんリターンの大きい、積極的な動きです。
勝敗には出なくても、徹夜した選手は攻めの選択をわずかに減らしていたのかもしれません(探索的な分析のため、この解釈は確定ではありません)。
eスポーツプレイヤーにとって何を意味するのか
この研究が測ったのはRocket Leagueで、FPSではありません。索敵や情報処理の比重が大きいゲームで同じ結果になるかは、まだ分かっていません。
そのうえで、編集部はこの結果を2つに分けて受け取っています。
「寝不足で反応が遅れ、注意が飛ぶ」は、感覚ではなく実験で測れた事実でした。
一方で、一晩ぶんの寝不足なら、勝敗を決めるほどの差にはなっていませんでした。「昨日寝てないから負けた」という説明は、少なくともこの実験では支持されていません。
むしろ、著者らが最後に置いた提言が、この記事で一番持ち帰ってほしい部分です。
「大会直前の徹夜を必死に避けることより、日々の睡眠を整えることに力を注ぐほうがよい」。一晩の事故より、毎日の積み重ね。それが研究チームの提言です。
実際のプレイ環境にどう取り入れるか
研究が確かめたのは「一晩の徹夜が何を変えたか」までです。以下は、その知見と著者らの提言を日々のプレイに落とし込むためのGAME STEP編集部の実践案です(この手順そのものの効果を研究が検証したわけではありません)。
- 「今日は何時に寝るか」を、プレイを始める前に決めておく。
寝不足の一番の入口は「もう1戦」です。終了時刻を先に決めて、就寝30分前にアラームをセットしてからランクに入ります。アラームが鳴った試合を最後にする、と決めておくだけでも効きます。 - 寝不足の日は、「注意が途切れている」前提でメニューを選ぶ。
落ちていたのは平均の反応だけでなく、「一瞬反応が飛ぶ」回数でした。新しい立ち回りを覚える練習や、限界の反応勝負は寝た日に回し、寝不足の日はいつものルーティン練習や慣れた武器・慣れたキャラでのプレイに切り替えます。 - 大事な日の前夜に眠れなくても、それだけで諦めない。
この実験では、一晩の徹夜だけなら直接対決の勝敗は崩れませんでした。「眠れなかったから今日はもう駄目だ」と決めつける必要はありません。ただし反応は遅れている前提で、いつもより慎重な立ち回りを選ぶことをおすすめします。
ここで少しだけ、コミュニティのお知らせです。
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この研究から分かること
- 約29時間の断眠で、反応テストの反応は平均約49ミリ秒遅くなり、注意の途切れ(反応に0.5秒以上かかる瞬間)は約4.9倍に増えた(いずれもp < 0.001)
- 頭の切り替え課題の単純な条件でも、約42ミリ秒の遅れが出た(p = 0.029)
- 一方、ペア同士の直接対決(1対1)の得点差に、意味のある悪化は確認されなかった(p = 0.498)
- 探索的な5指標のうち有意だったのは「空中にいる時間」の減少だけだった(0.48ポイント減・p = 0.013)
この研究だけでは分からないこと
論文がみずから認めている限界から挙げます。
- 参加者40名のうち女性は1名で、大半が10代後半〜20代前半の男性だった
- 実験前の睡眠を完全には管理できていない(「十分寝てきてください」と伝えても、3時間程度しか寝ていない参加者もいた)
- 徹夜の長さは約29時間で、それより長く起きた場合は調べていない
- Rocket Leagueは1試合5〜10分と短く、LoLやDota 2のように1試合が長いゲームへ同じ結果が当てはまるかは分からない
設計の性質上、言えないことも残ります。
- 対象はRocket LeagueでFPSではないため、索敵や撃ち合いの比重が大きいゲームでの影響は未検証
- 調べたのは「一晩の完全な徹夜」で、毎日1〜2時間ずつ足りない慢性的な寝不足の影響はこの実験からは分からない
- 上位約20%の腕前の選手が対象で、始めたばかりのプレイヤーで同じかは分からない
この最後の1点は、編集部からひとつ補足します。
今回のように実際に徹夜させて対戦まで組む実験は、参加者を絞る必要があるぶん、腕前の高い層で行われがちです。「勝敗が崩れなかった」という結果も、平均約2,000時間の練習を積んだ選手だから出た可能性は残ります。長い練習で体に染みついた動きは、頭が鈍っていてもある程度出せてしまうのかもしれません。ただし、この説明は論文に書かれたものではなく、編集部の推測です。腕前がまだ固まっていないプレイヤーが同じ徹夜をしたらどうなるかは——むしろ影響が大きく出る可能性も含めて——未検証です。
まとめ
- 一晩の徹夜で、反応は遅れ、注意が一瞬飛ぶ回数は増えた
- それでも、直接対決の勝敗に意味のある差は確認されなかった
- 研究チームの提言は「徹夜の一晩を恐れるより、毎日の睡眠を整える」
持ち帰りを1つに絞るなら、プレイを始める前に「今日は何時に寝るか」を決めて、就寝30分前にアラームを置く。編集部のおすすめはこれです(実践案)。
GAME STEPが考える「上達の仕組み」
GAME STEPは、上達を「才能や気合」ではなく「環境とルールの設計」の問題として扱う、eスポーツの個別コーチングサービスです。
停滞や伸び悩みに悩むプレイヤーに向けて、90分のマンツーマンセッションと、日々のチャット相談・宿題の設計で上達を伴走しています。
睡眠も、根性ではなく設計の問題だと考えています。「眠くても頑張る」を続けるより、「何時に終えるか」を先に決めるほうが、練習の質は守れます。
時間を増やす・削るの外に目を向けたい方は、「上達のための練習」の時間とランクの関係を調べた研究の記事も合わせてどうぞ。
気になった方への入口は3つあります。
- どんなサービスかをまず知りたい方は、GAME STEPのトップページをご覧ください
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※本記事は紹介した研究で示された知見の解説であり、効果を保証するものではありません。実践案の効き方には個人差があります。
参考文献
- Smithies, T. D., Toth, A. J., & Campbell, M. J.(2024). “The Effect of Total Sleep Deprivation on the Cognitive and In-Game Performance of Rocket League Esport Players” Nature and Science of Sleep, 16, 2183–2204. doi.org/10.2147/NSS.S470105
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