FPSで連敗するとイライラする原因は「気合不足」ではなかった
こんにちは、GAME STEPです。
このブログでは、実際にあったeスポーツ・ゲームに関する研究を、社会人プレイヤーの方にもわかりやすい形でご紹介していきます。
今回のテーマは「ティルト」。
連敗などをきっかけに感情が乱れて、プレイの判断がどんどん崩れていく、あの現象です。
平日の夜。
限られた時間でランクを回している。
1戦目、理不尽な負け方をする。
そこから3戦、4戦と崩れていく。
ボイスチャットで何か言われたわけでもないのに、
次のマッチではいつもより雑に突っ込んでしまう。
試合が終わったあと、
「自分はメンタルが弱いんだな」と、、、落ち込む。
社会人でFPSをプレイしている方なら、一度はこの感覚に覚えがあるんじゃないでしょうか。
こういう崩れ方は、「気合が足りない」「メンタルが弱い」という、個人の資質の問題として片付けられがちです。
でも、2024年に発表されたある大規模調査は、まったく違う話をしています。
連敗後にキレてプレイが崩れる現象――いわゆる「ティルト」――の正体は、気合の量ではなく、崩れたときにどう対処するかという「手順」の問題だった。
しかも対処の仕方を間違えると、その日の1セッションがまるごと崩れて終わってしまいます。
今回は、被験者1,007人の調査データをもとに、ティルトの正体と、今夜から試せる対処法を整理してみます。
こんな心当たりがあれば、最後まで読んでみてください。
- 1戦目の理不尽な負けを引きずって、その後の数戦で操作が雑になる
- 「次のマッチで取り返す」と意気込んで入って、さらに崩れる
- ティルトしている自覚はあるのに、止め方がわからない
- 味方への苛立ちなのか、自分への苛立ちなのか、区別がつかないまま試合を続けてしまう
結論:ティルトの正体は「気合不足」ではなく「怒りへの対処ミス」
先に結論を書いておきます。
今回の研究が示しているのは、次の3点です。
- 連敗そのものより、「勝つこと」に強くこだわった状態での連敗の方がティルトしやすい
- ティルトを最も強く引き起こす感情は、不安でも落胆でもなく「怒り」
- 怒りを消そうとする根性論や前向き思考よりも、「一時的に意識をゲームからそらす」ことだけが、統計的に有意にティルトを抑えていた
つまり、連敗して崩れるかどうかは、メンタルの強さという曖昧な資質では決まりません。
「怒りに気づけているか」
「怒りを行動につなげずに済ませる手順を持っているか」
という、後から身につけられる技術で決まる部分が大きい、ということです。
研究では何がわかっているか
どんな調査だったのか
今回のベースになっているのは、アイルランドのリムリック大学(University of Limerick)のCregan・Toth・Campbellチームが2024年に発表した論文です。心理学領域の国際オープンアクセス誌「Frontiers in Psychology」に掲載されました。
論文タイトルは「Playing for keeps or just playing with emotion? Studying tilt and emotion regulation in video games」(本気で勝ちにいくのか、感情と遊んでいるだけなのか:ビデオゲームにおけるティルトと感情調整の研究)。
ちょっと長いタイトルですが、内容はいたってシンプルです。
被験者は1,007名のゲーマー(平均年齢24.2歳、平均ゲーム歴11.9年、週平均プレイ時間15.9時間)。オンラインアンケートで、ティルトの頻度・強度、感情調整の戦略、怒り・不安・落胆のレベルなどを総合的に測定しています。
統計モデルはティルトのばらつきの約33%を説明できていて、1,007名規模の調査としてはかなり信頼性の高い部類だとされています。
発見① 「勝つこと」への固執が、ティルトを誘発する
研究では被験者を「勝つためにプレイ」「上達するためにプレイ」「楽しむためにプレイ」の3グループに分けて、それぞれのティルトレベルを比較しています(文中の「p」は統計的な有意差を表す指標で、一般的に0.05を下回ると「偶然の差ではなく、意味のある差」と判断されます)。
- 「勝つために」プレイ > 「上達するために」プレイ(p < 0.001)
- 「上達するために」プレイ > 「楽しむために」プレイ(p = 0.006)
- 「勝つために」プレイ > 「楽しむために」プレイ(p < 0.001)
勝ちにこだわるほどティルトしやすい。
これが結果です。
誤解してほしくないのですが、「勝ちを目指すな」という話ではありません。勝ちを目指す姿勢そのものが、感情の振れ幅を大きくする構造を内包している、ということです。
これ、APEXに置き換えるとすごく分かりやすくて。
平日夜、「今日は絶対にプラチナに乗せる」と決めてランクに入ったとします。
2戦目、理不尽な漁夫で全滅。
動機が「勝つこと」に固定されているので、この敗北は自分の中で「プラン崩壊」として処理されてしまう。
焦りから3戦目以降も無理なファイトを仕掛けて、連敗が続く――これがまさに発見①のパターンです。
同じ場面でも、動機を「今日はリコイル制御の精度を意識する」という上達系に置いていたらどうなるか。
理不尽な漁夫で全滅しても、その試合は「リコイル制御を3回試せた練習データ」として処理されます。
冷静に練習テーマを続けられるので、ティルトに入らずに済みます。
判断が崩れない分、勝率も結果的についてくる——そう考えられます。
発見② ティルトを最も強く予測するのは「怒り」だった
2つ目は、どの感情がティルトを引き起こしているか、という話です。
研究の重回帰分析(複数の要因が結果にどう影響するかを同時に調べる統計手法)では、ティルトを予測する要因のうち、群を抜いて強かったのが「怒り」でした(「β」はその要因がティルトにどれくらい強く影響しているかを示す数値で、絶対値が大きいほど影響が強いことを意味します)。
- 怒り(β = 0.559, p < 0.001):飛び抜けて強い予測因子
- 注意のそらし戦略(β = -0.114, p < 0.001):ティルトを下げる方向に働く
- ゲーム経験年数(β = -0.091, p = 0.005):長いほどティルトしにくい
- 週プレイ時間(β = 0.063, p = 0.018):長いほどティルトしやすい
ここで面白いのは、不安や落胆ではなく「怒り」だけが突出して効いている点です。
言い換えると、ティルトとは「負けて落ち込む」状態ではなく「負けて怒る」状態に近い。
落ち込んでいるプレイヤーはむしろティルトに入りにくく、怒っているプレイヤーの方がその後のプレイを崩していく、という結果でした。
同じ研究では、「MOBAジャンルのプレイヤーは、アクションアドベンチャーのプレイヤーよりも有意に怒りレベルが高い」(p = 0.003)ことも示されています。論文はこれを、MOBA系に存在する煽り・暴言文化との関連で議論していて、ボイスチャットやピン、テキストチャットで挑発が起きやすいFPS(Apex・VALORANTなど)も、構造としては近い環境だと思います。
VALORANTの2戦目、序盤に味方が特攻して落ちて、煽りピンを連打された、みたいな場面。
ここで内側に湧いているのは「落胆」じゃなくて「怒り」なんですよね。
怒りは行動エネルギーの高い感情なので、次のラウンドで「見せつけてやる」というモードに入って、無理なエントリーから単発デス、そのまま連敗――という流れ、心当たりある方も多いんじゃないでしょうか。
大事なのは、怒りを我慢することじゃなく、怒りに気づいて「走らせない」ことです。
湧いた感情を「あ、これ怒りだな」とラベリングできれば、「今これをそのまま走らせると次のラウンドが崩れる」と気づけます。
ラウンド間の20秒で深呼吸を1回、視線を画面の外に外すだけで怒りのピークが下がって、次のラウンドの判断は冷静さを取り戻しやすくなります。
発見③ 効いたのは「気持ちの切り替え」ではなく「意識をそらす」ことだけ
3つ目は、ティルトから守ってくれる戦略は何か、という話。
研究では5つの感情調整戦略(引きこもり・積極的対処・社会的サポートの希求・無視・注意のそらし)をすべて測定していますが、ティルトを下げる効果が統計的に有意だったのは「Seeking distraction(注意のそらし)」、つまり一時的にゲームから意識をそらす行動、ただ1つでした。
意外なのは、状況に働きかけて立て直そうとする「積極的対処」のような、いかにも効きそうな行動ですら、ティルトを下げる統計的に有意な効果は見られなかった点です。
感情がピークに達している瞬間に、その場でなんとか行動で立て直そうとするより、物理的に意識をいったんゲームの外に出す方が、はるかに効果的だったそうです。
論文では、eスポーツ選手の休憩が実行機能(脳の判断・抑制機能)を改善するという別の研究にも触れられていて、神経科学的にも裏づけのある結論だとしています。
3連敗してティルトを自覚した瞬間に「次のマッチで取り返す」とすぐキューを回してしまうと、意識はゲーム内に張りついたままで怒りは下がらず、4戦目も崩れがちです。
逆に、いったんキューを止めて5分ほどコーヒーを淹れる、スマホで全く違う動画を見る、窓の外を眺める、みたいな「物理的な離脱」を挟むと、怒りのピークが下がって、席に戻ったときには判断が冷静に戻っている、というケースが多くなります。
自分も生徒さんによくこれを勧めるんですが、最初は「そんな悠長なことしてる時間ないです」と言われがちです。
でも実際やってみると、その5分をケチって崩れた3戦の方がよっぽど時間の無駄だった——そう納得してくれる人が多いです。
今日から何をすべきか、3つの実践ステップ
研究の発見をそのまま行動に落とすと、次の3つになります。
1日あたり合計5〜10分くらいの追加コストで組み込める内容です。
- ランク開始前30秒、今日の動機を1つ宣言する。
「勝つ」ではなく「◯◯を意識する」「◯◯を試す」という上達系の言葉に置き換えます。「今日は勝ちたい日」があってもいいんですが、その日はティルトリスクが高いことを自覚した上で入るのがポイントです。 - 試合中、「今、怒っているな」とラベリングする習慣をつける。
ボイスチャットでの煽りやピン連打は、個人攻撃というより、ゲーム内に組み込まれた「怒りを誘発する構造」だと捉えます。湧いた感情が怒りなのか落胆なのかを区別すること自体が、対処法の分岐点になります。 - 3連敗したら、強制的に5〜10分離席するというマイルールを事前に決めておく。
離席中はゲームと無関係なことを選びます。攻略動画や自分の戦績ログを見るのは意識をそらす効果が下がるので、コーヒーを淹れる、散歩する、全く違うジャンルの動画を見るといった行動がおすすめです。
まとめ
今回紹介した3つ、もう一度書いておきます。
- ランク開始前30秒、今日の動機を上達系で1つ宣言する
- 試合中、「今、怒っているな」とラベリングする
- 3連敗したら強制的に5〜10分、ゲームと無関係なことで離席する
全部一気にやらなくて大丈夫です。
3つのうち、しっくり来たものだけ、今夜のプレイから試してみてください。
研究がすべてを説明してくれるわけじゃないですし、効き方には個人差もあると思います。
それでも、「気合が足りない」で片付けていたものの中に、実はちゃんと直せる手順がある、ということだけでも伝わっていたら嬉しいです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
GAME STEPからあなたへ
ここまで研究の話を中心に書いてきましたが、実はこの「気合や根性では解決しない」という話、自分自身の経験ともかなり重なります。
自分は元々、ずっと「あと1個上のランク」で燻っていたタイプのプレイヤーでした。
典型的な、伸び悩みプレイヤー。
人一倍、コーチング動画や上達コツ系の動画を漁るように見ていました。
でも正直、動画を見ても同じ動きができない。
教えてもらってもできるようにならない。
この感覚が、、、ずっと消えなかったんです。
今振り返ると、あの頃の自分に足りなかったのは気合でも才能でもなく、「自分の中のルール」だったんだと思っています。
「打ち合いのときはこう動く」という判断基準を一度決めてしまえば、あとはそのルールから外れていないかを振り返るだけでいい。
今回のティルトの話も構造は同じで、崩れそうになったときに使う手順を一つ持っておくだけで、崩れ方はかなり変わります。
自分がやっているGAME STEPというコーチングサービスも、この「動画を見てもできなかった自分」が当時欲しかったものを、今作っているという感覚が大きいです。
「この場面はこう」という単発の指摘で終わらせずに、
「次に同じ状況が来たときに、何を基準に判断するか」というルールとして言語化して、
自分で再現できる状態まで一緒に落とし込む。
ティルト対策も同じです。
「我慢しろ」という精神論じゃなく、
①怒りに気づくためのラベリング
②崩れたときに使う行動ルール
をあらかじめ持っておくことが、連敗の夜を立て直す一番の近道だと思っています。
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自分の「崩れ方」の傾向をもっと具体的に知りたい方向けに、GAME STEPでは2つの入り口を用意しています。
Style Scan(3分・無料):12問答えるだけで、プレイスタイルの傾向やミスが起きやすい場面のタイプが分かります。今回紹介した3つの対処法のうち、自分がどれを優先すべきかを考える手がかりになります。
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参考文献
[1] Cregan, S. C., Toth, A. J., & Campbell, M. J. (2024). “Playing for keeps or just playing with emotion? Studying tilt and emotion regulation in video games.” Frontiers in Psychology, Vol. 15(Frontiers刊の心理学領域の国際オープンアクセス誌). DOI: 10.3389/fpsyg.2024.1385242
※本記事の内容は、紹介した研究で示された知見の一例です。効果には個人差があり、必ず効果を保証するものではありません。